エウメーロス
エウメーロス(古希: Εὔμηλος, Eumēlos)は、ギリシア神話の人物である。長母音を省略してエウメロスとも表記される。主に、
などの他、数人が知られている。またオウィディウス『変身物語』7巻に息子が鳥になったことを嘆くエウメーロスの名が見え、またソポクレースは悲劇『エウメーロス』を書いているが、いずれもどのエウメーロスなのかは明らかでない。
パトライの王
このエウメーロスは、アカイア地方のパトライの土着の王で、アンテイアースの父。
トリプトレモスがパトライに穀物をまきにやって来たとき、農耕と都市の建設法を学んだ。しかし息子のアンテイアースはトリプトレモスが眠っている間に有翼の蛇の戦車に乗って種まきをしようとして、転落死してしまった。そこでエウメーロスとトリプトレモスは新しい都市を建設し、アンテイアースにちなんでアンテイアと名づけたという[1]。
メロプスの子
このエウメーロスは、メロプスの子で、アグローン、ビュッサ、メロピスの父。
この親子はみな大地の女神ガイアを信仰し、熱心に耕作に励んだが、他の神には見向きもしなかった。そこでヘルメース、アテーナー、アルテミスの3神は人間に変装してエウメーロスのところに行き、ヘルメース、アテーナー、アルテミスの祭に加わるよう説いた。しかし彼らは耳を貸すどころか馬鹿にしたので、メロピスは小型のフクロウに、ビュッサはレウコテアーの鳥ビュッサに、アグローンはチドリに、エウメーロスはフクロウに変えられた[2][注釈 1]。
エウグノートスの子
このエウメーロスは、エウグノートスの子で、ボトレースの父。
テーバイの住人だったエウメーロスはアポローンを信仰していたが、息子のボトレースはアポローンに犠牲を捧げる前に犠牲獣の脳を食べてしまった。怒ったエウメーロスは祭壇の松明でボトレースを殴り殺してしまった。エウメーロスと家族は彼の死を嘆き、アポローンはボトレースをハチクイに変えた[3]。
アドメートスの子
このエウメーロスは、テッサリアー地方のペライの王アドメートスとアルケースティスの子で[4]、ペリメーレーと兄弟[5]。イーカリオスの娘でペーネロペーの姉妹であるイプティーメーを妻とした[6]。
ヘレネーの求婚者の1人で[7]、トロイア戦争におけるギリシア軍の武将の1人。木馬に乗り込んだ戦士の1人としても数えられる[8]。
トロイア戦争のさい、エウメーロスはペライの軍勢11隻を率いて参加した[9][10]。エウメーロスは馬術に長け、彼の2頭の牝馬はアポローンがアドメートスに仕えていた頃に育てたもので、ギリシア軍の中でも特に優れた馬の1つだった[11]。エウメーロスはパトロクロスの葬礼競技では戦車競走に参加し、ディオメーデース、メネラーオス、アンティロコス、メーリオネースと争った。エウメーロスはスタート直後は先頭を切って走ったが、アポローンが2番手を走るディオメーデースの邪魔をしたとき、アテーナーは怒ってエウメーロスの戦車を壊したためエウメーロスは転がり落ちて怪我をし、結局最後にゴールした。それを見たアキレウスはエウメーロスに2等賞を与えようとしたが2着でゴールしたアンティロコスが反対したので、2等賞の代わりにアステロパイオスから奪った鎧をエウメーロスに与えた[12]。後にエウメーロスはアキレウスの葬礼競技にも参加したが、メネラーオスが勝利したとも[13]、エウメーロスが勝利したともいわれる[14]。
系図
ヘレーン | オルセーイス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイオロス | エナレテー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アルキュオネー | カナケー | カリュケー | デーイオーン | シーシュポス | アタマース | マグネース | ペリエーレース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アローエウス | エンデュミオーン | ケパロス | サルモーネウス | グラウコス | プリクソス | ディクテュス | ポリュデクテース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アウトリュコス | アローアダイ | ポセイドーン | テューロー | クレーテウス | ベレロポーン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポリュメーデー | アイソーン | ペレース | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イアーソーン | ペリアース | アナクシビアー | ネーレウス | クローリス | アミュターオーン | エイドメネー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アドメートス | アルケースティス | アカストス | ペリクリュメノス | ネストール | ペーロー | ビアース | メラムプース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エウメーロス | プローテシラーオス | ラーオダメイア | アンティロコス | ペイシストラトス | タラオス | アバース | アンティパテース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
その他のエウメーロス
- プラトーンによればポセイドーンとクレイトーの10人の子の1人で、アトランティスの王アトラースと双子の兄弟。ガデイラの王で、土地の言葉でガデイロスともいわれたという[15]。
- 一説にドローンの父[16]。
- ペーネロペーの求婚者の1人[17]。
脚注
注釈
- ^ ビュッサという鳥は不明。
出典
- ^ パウサニアス、7巻18・2-18・3。
- ^ アントーニーヌス・リーベラーリス、15話。
- ^ アントーニーヌス・リーベラーリス、18話。
- ^ 『イーリアス』2巻711行-715行。
- ^ アントーニーヌス・リーベラーリス、23話。
- ^ 『オデュッセイア』4巻796行-799行。
- ^ アポロドーロス、3巻10・8。
- ^ トリピオドーロス。
- ^ 『イーリアス』2巻711~715。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)3・14。
- ^ 『イーリアス』2巻760行以下。
- ^ 『イーリアス』23巻287行以下。
- ^ スミュルナのコイントス、4巻。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)5・5。
- ^ プラトーン『クリティアス』113d-114b。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)4・4。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)7・29。
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- アントーニーヌス・リーベラーリス『メタモルフォーシス ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)
- クイントゥス『トロイア戦記』松田治訳、講談社学術文庫、2000年。
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍渓書舎(1991年)
- 『プラトン全集12 ティマイオス クリティアス』岩波書店(1975年)
- ホメロス『イリアス(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)