ブッダブロ

白で100万回、青で10万回、紫で2万回反復計算を繰り返して得たブッダブロ集合

ブッダブロ: buddhabrot)とはマンデルブロ集合に関する図形。ガウス平面から点 c {\displaystyle c} をランダムに選び、その c {\displaystyle c} について数列 z n + 1 = z n 2 + c {\displaystyle z_{n+1}={z_{n}}^{2}+c} を計算し、 | z n + 1 | > 2 {\displaystyle |z_{n+1}|>2} となった場合に z 1 {\displaystyle z_{1}} から z n {\displaystyle z_{n}} までの位置に点を描くという作業を、指定した回数だけ反復(iteration)して行ったもの。形がブッダに似ていることから名付けられた。色毎に計算回数を変えてカラー化することもある。

発見

マンデルブロ集合が初めて描かれたのは1978年のことであり[1]、その名はこの集合の研究に深く取り組んだアメリカの数学者ブノワ・マンデルブロにちなんで付けられた[2]:p.146

1988年、ライナス・ヴェスタス(Linas Vepstas)がマンデルブロ集合を変形して得られるより芸術性の高い図形を発見し、サイエンスライタークリフ・ピックオーバー(英語版)に送っており、これがきっかけで、ピックオーバー軸(英語版)と呼ばれる図形が発見された。ピックオーバーの著書Computers, Pattern, Chaos, and Beauty[3]に収録されている。

ブッダブロを計算する手法を始めて提案したのはメリンダ・グリーン(Melinda Green)であり[4]、1993年のネットニュース、sci.fractalsに投稿された[5]。グリーンにはインド出身の同僚がおり、そのアドバイスをヒントにこの図形を初めガネーシャと名付けた[5]。ガネーシャは首から上が象の形をしたインドの神である。この図形にブッダブロの名をつけたのは、Robarts Research Instituteの[4]ロリ・ガルディ(Lori Gardi)である[6]

  • ブッダブロ
    ブッダブロ
  • ガネーシャ
    ガネーシャ
  • ブッダ
    ブッダ

計算方法

一般のマンデルブロ集合は、複素力学系

z n + 1 = z n 2 + c {\displaystyle z_{n+1}={z_{n}}^{2}+c}

を計算したときに(初期値 z 0 = 0 {\displaystyle z_{0}=0} )、 { z n } {\displaystyle \{{z_{n}}\}} が発散しないような c {\displaystyle c} の集合である。つまり

M = { γ | z n + 1 = z n 2 + c , z 0 = 0 , lim n | z n | < } {\displaystyle M=\{\gamma \vert z_{n+1}={z_{n}}^{2}+c,z_{0}=0,\lim _{n\to \infty }\left|z_{n}\right\vert <\infty \}}

を満たす集合である[7]:p.230

ブッダブロでも、基本の計算にはマンデルブロ数列を用いる。まずガウス平面の内の実数部、虚数部それぞれ-2~2の範囲を描画面に見立て、描画点の細かさを決めておく。次に描画面から点 c {\displaystyle c} をランダムに選び、 z n {\displaystyle z_{n}} n = 1 {\displaystyle n=1} から順に計算し、 | z n + 1 | > 2 {\displaystyle |z_{n+1}|>2} になった時点で(発散が明らかになった時点で)、描画面の z 1 {\displaystyle z_{1}} から z n {\displaystyle z_{n}} の位置に点を描く。すでに点が描いてあった場合には、より明るくする。(ただし n {\displaystyle n} の上限 N {\displaystyle N} を決めておき、それ以上になったら収束したと見なして点は描かない。)次にまた新たな c {\displaystyle c} をランダムに決め、先の計算を反復する[5]

反復回数の大きさは、画像の形に大きく影響する。反復回数が大きくなると、反復回数が小さかったときには暗かった部分にも描画が行われるようになる。


最大反復回数20

最大反復回数100

最大反復回数1,000

最大反復回数2万

最大反復回数百万

反復回数を3原色毎にそれぞれ変えて、画像に色をつけることもできる。これは天文学者が星雲(ネブラ)の画像を擬似カラー化する手法に似ている。そのため、このカラー化画像はネブラブロ(Nebulabrot)と呼ばれることもある(ブッダブロに含めることもある)。さらにはガウス平面に直行する軸を用意し、ブッダブロ集合をマンデルブロ集合と重ね合わせて立体的にプロットさせたアンチ・ブッダブロ(Anti-Buddhabrot)と呼ばれる画像もある。

  • ネブラブロ
    ネブラブロ
  • アンチブッダブロ
    アンチブッダブロ

マンデルブロ集合 z 2 + c {\displaystyle z^{2}+c} ロジスティック写像 λ x ( 1 x ) {\displaystyle \lambda x(1-x)} の関係は良く知られている。 z {\displaystyle z} c {\displaystyle c} をそれぞれ実数部と虚数部に分けた場合、

c r = λ ( 2 λ ) / 4 {\displaystyle c_{r}=\lambda (2-\lambda )/4}
c i = 0 {\displaystyle c_{i}=0}
z r = λ ( 2 x 1 ) / 2 {\displaystyle z_{r}=-\lambda (2x-1)/2}
z i = 0 {\displaystyle z_{i}=0}

という関係がある。この関係を図示するのには、昔から c r {\displaystyle c_{r}} λ {\displaystyle \lambda } を同じx軸上に置き、y軸の大きさを適当に調整して並べ、同じxでの形状を比較するのが常であった。

ブッダブロを発見したメリンダ・グリーンは、アンチ・ブッダブロ集合がロジスティック写像と立体的な関係を持つことに気付いた。元々、どちらの図形もある出発点から反復計算を行って得られるものである。アンチ・ブッダブロの z 2 + c {\displaystyle z^{2}+c} から c = ( r a n d o m , 0 ) {\displaystyle c=(random,0)} z 0 = ( 0 , 0 ) {\displaystyle z_{0}=(0,0)} のデータを抽出し、 { c r , z r } {\displaystyle \{c_{r},z_{r}\}} 平面に描けばロジスティック写像が得られる。

  • 同一平面での重ね合わせ
    同一平面での重ね合わせ
  • 直交平面での重ね合わせ
    直交平面での重ね合わせ

脚注

  1. ^ 川平友規 マンデルブロー集合
  2. ^ 西沢清子ら『フラクタルと数の世界』海文堂出版、1991年。ISBN 4-303-72300-2。 
  3. ^ 日本語訳:『コンピュータ・カオス・フラクタル―見えない世界のグラフィックス』、ISBN 978-4826900522
  4. ^ a b The University of Western Ontario’s newspaper Chaos (theory) rules for software developer(PDF12MB), p.10
  5. ^ a b c Daniel Green The diety hiding in the m-set
  6. ^ Melinda Green The Buddhabrot Technique
  7. ^ 石村貞夫ら『フラクタル数学』東京図書、1990年。ISBN 4-489-00332-3。 

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、ブッダブロに関連するメディアがあります。
  • Buddhabrot メリンダ・グリーンのページ
  • Buddhabrot ライナス・ヴェスタスのページ
特徴
An image of a fern which exhibits affine self-similarity.
反復関数系
ストレンジアトラクター
  • 多重フラクタル系(英語版)
L-system
Escape-time
fractals
確率的フラクタル
人物
その他
  • "How Long Is the Coast of Britain?(英語版)"
  • List of fractals by Hausdorff dimension(英語版)
  • The Beauty of Fractals(英語版) (1986 book)
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